rekisitekishikouryoku’s blog

歴史的思考力を一過性でなく継続的に身につける方法

歴史的思考10歴史総合 ヨーロッパの主権国家体制形成

今回の参考資料・引用元は

山川出版社発行の教科書『歴史総合 近代から現代へ』2021年検定済23年発行

P30~P32(14行目)「近代の前提」「主権国家体制の形成」

https://new-textbook.yamakawa.co.jp/history/

 

冒頭文で時代を特定する

ここは、冒頭文というより、冒頭単元になっています。
後の本文も含めいわゆる黒色のゴシック語が全くなくて、学習者は無味乾燥に思うかもしれません。
しかしこういうところこそ、歴史的思考が大活躍する場面です。

脱線話になりますが、ここまでのスピードを見る通り遅々として進みません。
内容が豊富すぎるからです。
この教科書で実際に授業をした人によると、1年間で3分の1しか進まなかったという声も聞くほどです。
この豊富な内容で歴史的思考をしっかりと深めると、そうなります。
できれば歴史総合科目は、高1だけにとどめずに高校3年間の履修体制にしたほうがよさそうです。

話を戻します。
冒頭単元は、P30の1行目から21行目までです。
文が長いので、ここでは繰り返し出てくる言葉のチェックによりその要旨をつかみます。

近代 ヨーロッパ アジア 世界 諸地域 貿易 18世紀 アメリカ 西 諸国 国々 政治 国家 化 16世紀

冒頭単元なので、固有名詞も含んでいます。
この語群を使って作文をします。

「近代の前の時代(16世紀から18世紀にかけて)の世界は、ヨーロッパ・アジアの諸地域が個々に存在していた。やがてヨーロッパ人が大西洋に飛び出し、アメリカなどに進出。ヨーロッパ諸国は政治が充実し、国家として様々な変化を起こすことになる。」

教科書の内容を踏まえつつ、自分なりに作文してみました。

 

本文の要旨を把握する

では、教科書のP30の22行目からP32の14行目までの中の、繰り返し出てくる言葉をチェックしましょう。
段落ごとに区分し、その語群を使った作文も記します。

16世紀 17世紀 世界 帝国 国家 弱まる 権力 国々

「16世紀に栄えた世界各地の帝国や国家は、17世紀に権力が弱まった。それに代わって台頭した国々があった」

君主 国内 諸侯 貴族 おさえる 関係 国際 主権 体制 王 兼ねる 戦争

「その国々には君主がいて、国内の諸侯貴族をおさえながら、他国と国際関係を築いた。主権国家体制と呼ばれる。しかし王が他国の君主を兼ねるなどしたため、対立が激しく戦争が起こりやすかった」

皇帝 領 権力 議会 統治

「皇帝が存在したドイツでは、国内の領主たちが独立の権力を持っていた。議会が存在したフランスでは、君主が貴族と議会をおさえ統治した」

革命 政 共和 権利 選挙 言論 自由 権限 同意 法 違法 立憲 日本  先例

「イギリスでは2度の革命がおこり、一時的な共和政を経て、立憲君主制が誕生した。それは国民に選挙された議会での自由な言論で作られた法に基づき、君主は議会の同意なく国民の権利を奪うと違法になるという体制で、日本国などの先例となった」

共和国

アメリカや革命後のフランスは、共和国を作った」

東方 海 領土 進出 拡大 清

「ロシアは、海がなかったので東方に進出して領土を拡大し、清や日本を脅かすことになった」

 

歴史的思考を促すような語を抜き出す

弱まる 君主・貴族・諸侯・皇帝・王・領(主) おさえる 国内・国際 主権 戦争 議会 権利 自由 法 先例 共和国 東方 海

今回も、いっぱいありますね。
この後しばらく歴史用語の少ない単元が続きます。
つい飛ばし読みしそうですが、こういう箇所が歴史的思考の活躍どころであり、記述式・論述式問題の出題ポイントでもあります。

*「弱まる」

ということは、かつて強かったものが弱まったということです。

ここでは、西南アジアのイスラーム3帝国や、東アジアの明・清、そしてこの歴史総合では触れられていないヨーロッパ中世の神聖ローマ帝国が、かつて強かった国々です。

神聖ローマ帝国は、古代ローマ帝国とは別の国です。
古代ローマ帝国に憧れその後継を自負しキリスト教会を保護する世俗の代表者が、神聖ローマ皇帝です。
実質は、ドイツ(第一)帝国です。

*「君主・貴族・諸侯・皇帝・王・領主」

国家を構成する人たちがずらりと出てきます。
あれ?国民は?
そうです。ここには、国の大多数を占める民が記されていません。
これは、どういうことでしょうか?

そう、この16~18世紀にかけて台頭したヨーロッパの国々は、君主たち少数の支配者がやりたい放題で、気ままに多数の民を圧迫し重税を課し財産没収し逮捕し処刑し放題でした。
もちろん民の不満が増大し、この後、民による政治革命がおこります。

日本はどうだったかというと、江戸幕府は最初は力づくの武断政治でしたが途中から説得による文治政治に変わったため、民に不満はありましたが、極端には増大しませんでした。
日本で政治革命が起きなかった理由です。

*「おさえる」

各国の君主は国内では諸侯(貴族)の力をおさえ

フランスでは…君主が国内の貴族の力をおさえ

と教科書に記されています。
この前の時代(中世ヨーロッパ)は、君主は諸侯や貴族の中のひとりに過ぎず、一応国を作っていても国内は諸侯の領地が独立の権力をもち分裂状態でした。

なお諸侯は領地を持つ有力者、貴族は君主の宮廷に代々仕える高級官職者です。
高官の多くが広大な領地を所有していたので、両者は一致することが多いです。

この16~18世紀は、君主の力が増大した時代です。

*「国内」「国際」「主権」

この時期のヨーロッパ諸国に共通する特色です。
君主が自意識を高め、国内に対しても、国際的にもその自意識を強く主張しました。
この自意識のことを、国際的に「主権」と呼びます。
「俺が、この国の主だ!他人にとやかく言われる筋合いはない!」という意味です。

「主権」という言葉には、もう二つ意味があります。

一つは、国民主権というふうに使うときの、主権です。
この意味の主権とは、国家の政治の主役は誰か?というものです。

もう一つは、この陸地、この海はどの政府が主として支配しているか?という意味です。領土主権といういい方をします。

この最初の意味の主権は、のちに国家がその存在の独立性を国際社会にアピールするという意味に使われていきます。

*「戦争」

反対語は、平和。
この時代は、戦争ばかりやっていました。君主が互いに自意識(という名の欲望)を主張し合ったのです。

ただこの後、国民主体の国家に変わっても戦争はなくならず、現代も各地で戦争をやっています。
戦争の原因は何なのでしょうか?
具体的には
「お前の土地、いいな?よこせ!」「いやだ!誰がくれてやるか?」
という欲望のぶつかり合いです。
欲を出しすぎです。欲を抑えることはできないのでしょうか?

国内には人々の欲望を抑える、法という仕組みがあります。
国際社会においても、強力な効力のある法を作る時が来ています。

*「議会」

人々が集まり話し合って問題を解決する場を会議と呼び、その国家レベルの場を議会と呼びます。
これは、君主が気ままに問題を解決しようとすることの、対極にあるものです。

フランスでは…君主が…議会も開かずに権力を自身に集中して

と教科書に書いてますね。
両者が対極にあるということが分かりやすいです。

この時期の議会は、あくまで君主の政治を助けるとか、貴族・諸侯の不満を和らげるという意味しかありませんでした。
それでも君主にとっては邪魔な存在だったのです。

*「権利」「自由」

現代でよく使われる言葉が出てきました。
みんな気軽に、その本当の意味を知らないで使っている人が多いです。
他人の悪口をSNSに載せ批判されると「自分には表現の自由がある」と反論したりしています。

まず言葉の意味ですが、どちらも自然のままの状態では存在しない概念です。
どちらも自分を妨害するような強力な存在が立ちはだかったときに、その存在に対し「自分には何々の権利がある」「自分は何々から圧迫されない、自由だ」と主張するという形で出てきます。

そしてこの言葉たちの矛先であるその強力な存在とは、何か?
国家権力です。
どちらも国民が国家に対し主張するものです。
国民同士で主張し合うものではありません。
この言葉たちの初出が、この時期の君主の気ままに対抗するものだったのです。

国民同士が互いに自分の意見を主張し合うことは許されるのですが、それは権利とか自由とかの強力な(他人を屈服させる)主張ではなくて、互いに信義に基づき誠実に行って(民法1条)折り合いをつけるべきだとされます。

*「法」

一般的にはルールのことですが、歴史的にはこの時期の終わりころのヨーロッパに出てきます。
実はイギリスでは、11世紀に早くもその萌芽がありました。

法も、権利や自由と同じく目的があって存在するものです。
君主が気ままにやりたい放題をするのを阻止するため、議会が作ったルール。
これが、法の歴史的な意味です。

この意味の法というと、日本史では古代の律令がそういう意味を持っていたというのがあります。
当時の朝廷は神権政治に近く天皇や政権者がやりたい放題にする傾向があったのですが、藤原不比等らがこれを阻止するため導入したのが律令つまり法だったのです。

*「先例」

というと、保守的な人たちがかたくなに守る慣習のようなものというイメージがありますが、これがあると非常に便利になります。
トラブルがあったときにそれを苦労して解決したその過程を記録に残しておけば、後で同じようなトラブルが起きたとき迅速に解決できるからです。

現代日本にも最高裁判所判決例判例)というのがあり、それは法律と同じ意味があるとされています。
過去に、最高裁判所が「この法律は憲法違反だ」と判断したことにより、国会がその法律を最高裁判所が示したとおりに改正したことが何度もあります。

鎌倉幕府御成敗式目室町幕府建武式目、江戸時代の大岡裁きも、過去の裁判例を参考にしたものです。

*「共和国」

共和政というと、古代のギリシアのポリスや、古代ローマ、中世のイタリア半島の港町や、戦国時代の堺などを連想します。

しかし、この時期に現れた共和国は、その古代中世の共和政と異なる次元のものです。

古代や中世のものは、貴族たちや豪商たちといった支配層が作った協議の場です。
それに対しこの時期のものは、国民が従来の王政や貴族支配を打倒して新たに始めたものです。
この共和国という語も、前の「権利」「自由」「法」と同じく目的によって存在している言葉です。

*「東方」「海」

出ましたね。東方といえば、西方・北方・南方を連想します。
東方は、ロシアが冬も凍らない海港を求めて進出した方角です。

当時のロシアは現代のモスクワ付近しか領土がなく、周囲を強国に囲まれていました。
西方は西ヨーロッパ諸国、南方はオスマン帝国、北方は一年中凍っている北極海
ロシアが進出する方角は、東方しかありませんでした。

ロシアも、他国と同様に海外貿易を望んでいました。
同様の状況は日本の戦国時代にもあり、甲斐の武田信玄が海港を求めて北の上杉氏、南の今川氏と抗争したというのがあります。

 

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