rekisitekishikouryoku’s blog

歴史的思考力を一過性でなく継続的に身につける方法

歴史的思考3歴史総合 イスラーム3帝国(3)

はじめに

ブログの内容の性質上、どうしても長くなってしまうことをご容赦ください。

 

参考資料・引用元

山川出版社発行の教科書『歴史総合 近代から現代へ』最新版

P24~25「西・南アジアのイスラーム帝国」

https://new-textbook.yamakawa.co.jp/history/

 

前回からの続き

本文中に繰り返し出てくる言葉(メインテーマ)から、対照語などパートナーを持つ抽象的な言葉を抽出した結果。

"帝国 繁栄 内 外 教徒 自 首都 輸出 綿織物"

 

”繁栄”(P24の10行目に初出)

この言葉は、相対的な(他の何かと比較してという)意味を持っています。

つまり、繫栄しているこのイスラーム3帝国に対し、繫栄していない国や地域が存在していることが分かります。

それは、ポルトガル・スペイン・イギリス・フランス・オランダなどのヨーロッパ諸国です。

 

当時16世紀のヨーロッパ諸国は、産業がろくに発達せずじり貧の停滞したローカルな地域でした。

現在のこれらの国々が国際政治や国際経済をリードしているのと比べると、月とスッポン、天国と地獄、雲泥の差です。

 

この16世紀は大航海時代で、これらの国々が世界に羽ばたき世界をリードし始めたというような印象です。

が、実態は、商人たちがアジア諸国を訪れてタージマハール(P6に写真。高さ50メートル級の墓石)などの建築の巨大さに度肝を抜かれ腰を抜かし、侵略どころではなく港町に小さな拠点を作り細々と貿易(しかも買いメイン)をするだけでした。

 

”内” ”外”(P24の11行目に初出)

教科書本文の中にどちらも明記されているので、分かりやすいです。「内外」という一つの熟語を作っていたりします。

3帝国の共通の特徴として、国内と国外が密接な関係にあることがあります。

 

現代なら、空港や港が身近にあり行こうと思えば容易に行けます。

さらにインターネットにより、自宅の自室や手のひらの上から世界につながっています。

自宅に引きこもる生活をしている人も、メディア(テレビなど)やネット端末を使っているならそれは引きこもっているのではなく、グローバルな世界と関わっていることになるのです。

 

しかしそういう手段のない16世紀では、人は普通狭い日常空間(国内、どころか村内かもしれない)の中で一生を終えます。

ヨーロッパから海外に飛び出しアジアを訪れるというのは、ごく少数の人たちだけでした。

 

それが、この3帝国では(特に首都では)、日常的に海外の人や他の民族、他の宗教と触れ合う状態だったのです。

これは、非常に特異なことといえるでしょう。

豊臣秀吉の時代の日本でさえ南蛮人が多数訪れたのは堺や長崎どまりで、大坂の城下町にはほとんどいなかったのです。

 

”教徒”(P24の16行目に初出)

宗教の信者のことです。

 

宗教には、いろいろあります。

この3帝国が国教にしているイスラーム教、ヨーロッパ人が主なキリスト教、インド発祥の仏教。

その他、民族宗教ユダヤ教ヒンドゥー教ゾロアスター教神道など。

 

この3帝国は、繫栄している時代はイスラーム教以外の他の宗教に対しとても寛容で、自治を認めたり、イスラーム教徒以外に課す税を免除したりしました。

イスラーム教は、唯一神信仰です。

それなのに心が広いとは、すごいことですね。

帝国の巨大な力を背景に、余裕たっぷりというところでしょうか。

 

ちなみにこの3帝国が衰えてくると、心が狭くなり他宗教への圧迫が酷くなります。分かりやすいですね。

 

イスラーム教とよく比較されるのは、キリスト教です。

近年の国際情勢でも、イスラーム教の急進派がキリスト教国の欧米諸国でテロをしかけ、欧米諸国が反撃し戦争になるという事例が多いです。

中世には、キリスト教諸国がイスラーム教諸国に戦いをしかける十字軍というのもありました。

 

この3帝国、特にオスマン帝国は、ヨーロッパから東洋へ行く貿易路をふさいでしまった(通過するとき通行料を払う必要がある。現代でも関税が輸入品に課せられる。この関税を廃止or安くするのが自由貿易です)ため、キリスト教諸国を大いに悩ませます。

そこで国家的な援助によりこのオスマン帝国を経由しない新航路の開発が命じられ、コロンブスら多くの探検家が出航しました。これが大航海時代です。

このヨーロッパ人の世界進出は、貿易路の開発のほかに、キリスト教の布教(つまりイスラーム教への反撃)という目的もありました。

 

このように、イスラーム教の話が出てくればその頃キリスト教はと、キリスト教の話が出てくればその頃イスラム教はと、常にライバル(笑)の存在を意識することが重要です。

 

”自”(P24の16行目に初出)

「自」の反対語は、「他」です。自分・自己と、他人。

自というと、自由とか自治とかの語が思い浮かびます。

 

この3帝国は、統治者の自分とは異なる他の者たちに対し、自由や自治を認めました。

 

普通の人は、皆、ジコチューです。

というか、他人に対し思いやる気持ちを持つには、まずは自分・自己がしっかり確立している必要があります。

自分に余裕ができて、初めて他人に配慮することができます。

 

この3帝国は、つまり繫栄していたので余裕しゃくしゃくだったというわけですね。

 

”首都”(P24の17行目に初出)

首都の対照語は、地方です。

 

この3帝国は、特に首都が国際色豊かになり大繁栄しました。

「イスファハーン(サファビー朝の首都)は世界の半分」(P25右上の写真)

 

さて、この3帝国の首都以外の国内各地域は?

まあ、ここがこの3帝国の限界でしょう。

いくら繫栄しているといっても、16世紀です。

この国々も、地方に行くとヨーロッパと変わりありませんでした。
皆、狭い村(良くて隣村同士)内で一生を過ごしました。

 

現代日本でも地方だと、駅前はビルが林立し大都会みたいですが、少し歩くと田畑が広がっているということが多いです。

それは一概に悪いことではなく、狭い範囲にスーパーや医院や市役所が集中していると生活しやすいという利点もあります。

ただやむをえない事情により各地に残って生活している人たちにとっては不便さが増していて、地震で道路が寸断されると孤立が多数発生してしまっています。

 

”輸出”(P25の9行目に初出)

輸出(外国に物品を売る)の反対語は、輸入(外国から物品を買う)。

しかしこの単元の中に、輸入という言葉はどこにもありません。

その理由は、この3帝国は輸入の必要が無いからです。一国で、国民生活に必要な物資を確保可能で、自己完結できるからです。

 

現代でいうと、この自己完結できる国の代表がアメリカ合衆国です。

米国は自己完結できるので、米国民の多くは伝統的に海外の諸国との関わりを持つことを嫌います。これを孤立主義とか、米国第一主義とかいいます。

ただ米国は世界の大国なので、世界政治や世界経済に対し一定の責任を負っていることは間違いなく、このため米国民の中には国際主義を主張する人たちも多くいます。

しかし近年は米国にも余裕がなくなり、自国第一主義がメインになってきています。

 

この3帝国が輸出する物品たち(生糸や綿織物など)は、いずれもかなり高度な技術によってつくられた優れものでした。

当時のヨーロッパ諸国も同じような物品を作っていましたが、まったく太刀打ちできませんでした。

3帝国は輸出超過で大もうけ、ヨーロッパ諸国は輸入超過で劣勢でした。

 

ふと、現代日本が気になりました。

過去、経済大国などといわれていましたが、国民生活に必要な物資の多く(原油・鉱産物・小麦など)を輸入に頼ってしまっています。

輸入先で戦争や紛争が起きたら、日本経済はひとたまりもなく崩れ去ってしまいます。

日本にとっては、世界平和が必須条件なのです。

 

”綿織物”(P25の17行目に初出)

織物には、綿織物の他に、絹織物、毛織物、麻織物というのもあります。

原料別の分類です。

 

綿織物の原料は、綿花(コットン)。植物繊維。

絹織物の原料は、蚕(かいこ)が桑の葉を食べ口から吐く生糸(シルク)。植物由来の動物繊維。

毛織物の原料は、動物の毛。羊の毛(ウール)が代表例。

麻織物の原料は、麻。植物繊維。

 

綿織物・毛織物・麻織物は、原料となる動植物が多くいるので、古来一般的な繊維製品です。

絹織物の生産は難度が高く、その製品は高価です。

 

この3帝国のうち、インドのムガル帝国産の綿織物は手織りであるにもかかわらず技術が半端なく高度で、当時のヨーロッパ人を驚愕させ魅了させました。(教科書P36左下の写真)

しかしハングリー精神にあふれるヨーロッパ人は、リベンジを決意していました。

「いつかインド産よりも良質な綿織物を作って、見返してやる」

 

しかしリベンジするのに、200年もかかってしまいました。

18世紀後半の産業革命です。

蒸気機関で動く織機を発明し、質の良い綿織物を大量生産し安価で販売し巨利をあげ、インド産を圧倒したのでした。

 

ちなみに付け加えで、繊維製品の製造工程を書いておきます。

 

糸を作る・製糸(蚕から糸を取り出し、数本を
        より合わせる)

    ・紡(つむ)ぐ(羊毛や綿花から糸を
      取り出し、数本をより合わせる)

⇒織る(糸を縦横に組み合わせて布を作る)

⇒晒(さら)す(布を漂白する)

⇒染める(色を付ける)

⇒仕立てる(糸を使い裁縫していろいろな製品を作る)

 

まとめ

1つの単元だけで、これだけの歴史的思考の分量になります。

パートナーのいる言葉は、奥がかなり深いですね。(人間と同じカップルパワー)

ただこういうふうに思考をするには、かなりの知識量を必要とします。

書いていた私も、あちらこちらをいろいろと調べました。

「思考をするには、知識が必要」と痛感します。

 

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(メインテーマを理解するには、ひとまず固有名詞や歴史用語を脇に置いておくというのが重要です。しかしそういう知識が不要かと言われると、必要です。歴史的思考の予備知識としても必要ですし、定期テスト対策にも必要です。年号や世紀は、重要な目安になります。覚えにくいので、語呂合わせが有効です)

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